高校入試の全国状況 2025春~高校でもインクルーシブ教育の実現を!(会報2025年5・6月号)
埼玉県・運営委員 竹迫和子
定員内不合格問題について、国会でも継続的に質問が行われ、マスコミでも取り上げられることが増えている。若い世代の記者が受験者への取材を続けていて、全国連への取材依頼も例年より多かった。
定員内不合格がはらむ適格者主義や障害者差別の問題が以前より認知されるようになっているようにも思う。しかし、障害者権利条約が批准され「建設的対話」や「合理的配慮」がよく言われるようになっているのに、むしろ高校や教育委員会の姿勢に柔軟性がなくなっているのを感じる。
Aさんは3年目の受験となった。昨年と同じ静岡県立高校の福祉科を受験したが不合格(福祉科は定員割れだったが普通科から第2志望の人を優先的に入れて)となり、再募集では定時制(普通科)を受験した。発表を前に全国から「定員内不合格を出さないで!」と要望を送った。しかしながら23人募集で受験者は4人だけにもかかわらず、一人だけ不合格とされた。Zoom参加が認められた不合格理由説明会では、面接において、定時制で学ぶ強い意志が見られなかった、定時制のことを理解していない、といった説明があった。なぜそう判断したのかの説明はなかった。受験者みんながそんな意志を持っているとは思えない。こんな理由でAさんだけ不合格にしていいのか?学ぶ意欲は人一倍あるのに。静岡県は「誰一人取り残さない教育」を掲げている。ならば、他の生徒と同等に高校で学べるようにすべきだ。
千葉では定員内不合格が減りつつはあるものの、きびしい状況の中でも受験が続いている。他機関への働きかけ・連携も盛んに行っている。8月には千葉県社会福祉会から声明文が、3月には千葉県弁護士会からも会長声明が出された。「千葉『障害児・者』の高校進学を実現させる会」では、Bさんの受験に向けてiPadの使用と検査時間の延長を求める署名活動を行い、4275筆を県教委に提出し、その配慮が認められ合格した。
昨年春に定員内で不合格とされたCさんとDさんは県弁護士会に人権救済の申し立てを行っていたが、秋募集でCさんは合格とされたものの、Dさんは不合格とされた。何回も受験しているだけでも学びたい意欲は十分にわかり、特別配慮申請で認められた配慮に沿った介助者と真剣に取り組んだのだ。だが、面接では障害に配慮のない質問の仕方があった。県教委に再判定を求めたが「判定は適正」と回答してきたため、不合格の取り消しなど求めて県を提訴した。県側の意見書では障害の無理解・差別性が露呈されている。しかし、「入学の仮の義務付け」の申し立ては却下され、Dさんは県内進学を断念した。都立高校に合格し、裁判も取り下げた。障害に対する差別、そのために育ってきた地域や友だちからも離されること。裁判は取り下げても、県や高校の行為は許されない。
北海道のEさんは昨年10月の旭川での高校全国交流集会で、幼稚園、小中学校で学び育ち、地元の夜間定時制で共に過ごすことをめざしていると報告をした。「インクルーシブ教育と障害に合わせた教育の両方に軸足をおいた学びの場」といった夜間定時制高校の先生のことばから、進路先を考えたという。早々に合格の知らせがあった。
長野のFさんも同集会で、「高校の卒業資格を取らせたい」「地域の高校に友だちと行けたら」と、たいへんでも高校をめざしている思いを語った。中学校の先生は協力的だが、長野県は選抜で「本人の責に帰さない事項は含めることはしない」としているものの、定員内不合格0にはなっていないので不安もある。信濃毎日新聞の記者が取材を続け、「子どもの学ぶ道閉ざすな」といった社説も出した。受験時の配慮で問題用紙の拡大、ルビ振りのほか、問題文と解答欄を色分けで連動させるといった工夫も行った。郡内に1校しかない全日制高校に合格し、自転車・電車・バスを乗り継いで登校している。
熊本のGさんは、昨年の受験では合理的配慮についての話し合いもきちんとできないままの受験だった。希望する配慮があったとしても得点ができたかどうかはわからないが、定員内にもかかわらず一人だけ不合格にするなど排除するのは人権問題だとして日本弁護士連合会に人権救済申し立てを行った。地元の応援者と共に県と対話会を持ち、12月からは受験時の配慮について話し合った。「ともまなネット」で全国的な情報交換も行っている。昨年受験した農業高校の学校見学などに参加し、トマト農家に手伝いに行ったりもした。しかし、前期では不合格、後期は定員ちょうどにもかかわらず不合格。第2希望の科も定員内にもかかわらず不合格とされた。二次募集では、不登校の生徒を受け入れるなどインクルーシブ教育的な実践をしている高校の情報があり、受験し合格した。
広島では二人のダウン症の生徒が、全日制総合学科と定時制午後の部に定員内で合格した。広島では県内の地域ごとにおしゃべり会を持ち、障害当事者や教員(障害者団体の介助に来ている人もいる)などが参加して相談など行っていて、今回受験したのはそこに継続的に関わってきた生徒たちだという。
香川ではHさんが21年で37回目。丸亀高校定時制の二次募集を受験したが、4人受験で一人だけ不合格とされた。「本人が指定する慣れた介助者」の同席や希望する介助内容も一定認められた。しかし面接で、言語障害により口頭で答えることができない場合に書いて読むことは認めるが、書いたものは選抜資料として認めないという。いったい合理的配慮とは何なのか。卒業後の活動歴など集めた資料を提出しているが、受け入れのための資料とはなっていない。香川では、車イスの生徒が志望した複数の私立高校から断られたというニュースが大きく取り上げられた。Hさんたちは「無意識の差別を自覚するよう指導してほしい」と要望書や公私立高校へのアンケートの準備をしているという。
医療的ケアを必要とし通常学級で学び続けてきたIさんの高校入試に向けて、「障害児の高校進学を実現する岡山県連絡会」では広く県外にも呼びかけて集会を開いたりしてきた。受験時の配慮について県の担当者と在籍中学校の教員数名も参加して話し合い、看護師2名配置、教員3名の代読・代筆なども認められ、問題の選択肢化は7~8割程度までは認められた。
中学校では全問選択肢化していて、入試で記述式問題があるのは合理的配慮がなく「Iさんにとってフェアーではない」という教員の発言もあったという。定員内不合格を出さないよう要望もしてきたが、特別入試では不合格、一般選抜でも定員オーバーとなった。特別支援学校に通うことになり、関係者で共に作り上げてきた学びを続けられないことは残念だが、これからの生活でも活かされていけばと思う。3月19日「Iくん義務教育終了おめでとう~9年間よくやったね~」という集いを行った。
神奈川では県が「実現する会」との話し合いに全く応じないため、全国から抗議や団体との話し合いの事例を送った。事態はなかなか進まず、弁護士会に人権救済の申し立てをする予定だという。2022年まで「『障害』ゆえに点が取れない受験生に対する差別はしないこと」等の要求項目に沿って定員オーバーでも受け入れていたことは、これからの方向性として重要であるのだが、県は話し合いにも応じず逆行してきている。
愛知では今年は受験がなかったが、この3月の卒業生の報告の集まりを行うなど、これからも高校で学ぶことが続くよう取り組んでいる。
東京では連絡協関係で受験生は3人、全員合格した。一人は近くの高校を定員オーバーだったが合格。一人は面接を受けず不受検となったが後期で定員内で合格した。また、前述のとおりDさんが転居して受験、定員内で合格した。住むところにより学びを奪われることの理不尽さを考えさせられる。
大阪では「高校問題を考える大阪連絡会」が、恒例の高校入試担当に「宣言文」を出したのが去年は2人、今年は1人で、危機的な状況になっているという。定員割れ校が全日制の半分を超えていたことで、定員内で合格した。国の高校無償化により、大阪のように公立高校離れが起こることが懸念される。
高校や教委の頑なさは一緒に育つ・暮らすという経験がない「知らなさ」もあるのではないだろうか。障害者権利条約の人権モデルとのギャップも大きい。選抜で途切れさせることなく一緒に学ぶことの意義をていねいに伝えていく必要があるように感じる。国会では舩後靖彦議員が定員内不合格について、法改正に踏み込んだ質問を始めている。医療モデルである「能力・適性」の考え方を人権モデルの方向へどう変えていくか。