優生保護法の反省・総括をふまえインクルーシブ教育への転換を(会報2025年10月号より)

DPI日本会議  尾上浩二

■優生保護法・違憲判決と「行動計画」

 2024年12月27日 、「障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた行動計画」(以下、行動計画)が発表されました。長年の裁判闘争の結果、7月3日に「優生保護法は制定時から違憲」との最高裁判決が下されました。判決を受けて、前・岸田首相は優生保護法裁判の原告・弁護団・支援者と面談し謝罪を行いました。その際、「優⽣思想及び障害者に対する偏⾒差別の根絶に向けては、これまでの取り組みを点検し、教育・啓発等を含めて取組を強化するため、全府省庁による新たな体制を構築してまいりたい」と述べました。
 そうして設置された対策推進本部のもと検討が進められました。その幹事会には、各省庁の局長クラスの他に、前・障害者政策委員会委員長の石川准さん、国連・障害者権利委員会委員で弁護士の田門浩さんなども参加しました。そして、旧優生保護法訴訟原告をはじめ、のべ19の障害者団体からのヒアリングも行われました。そうした経過の上でまとめられたものです。  

■インクルーシブを求める声に対して分離教育推進?!

 行動計画の構成は、Ⅰ はじめに、Ⅱ ヒアリングにおいて当事者の方々から示された主な問題意識、III取り組むべき事項、IV実施体制というものです。
 公務員の意識改革に向けた取り組みとして障害当事者を講師とした研修実施や、優生保護法等の検証を踏まえた人権教育の教材の作成と学校教育・人権啓発活動での活用など、一部に新しい取り組みが盛り込まれていますが、「優⽣思想及び障害者に対する偏⾒差別の根絶」という趣旨からすると不十分な点が目立ちます。ヒアリングで指摘された内容と「Ⅲ 取り組むべき事項」で書かれている項目とのギャップが全体を通じて見られます。とりわけ、かい離が著しいのが教育に関する記述です。
 ヒアリングでは「差別・偏見をなくしていく上で子どもの時から共に学び育つこと、インクルーシブ教育の推進が不可欠」と、どの団体も口を揃えて指摘されていました。しかし、「学校教育」の最初の項目にあげられたのは、「特別支援学校と小中高等学校のいずれかを一体的に運営するインクルーシブな学校運営モデル」と「交流・共同学習の推進」でした。
 本紙の読者の皆さんにとっては周知のことですが、特別支援学校と小中高校が併設されたとしても分離教育であることに変わりはありません。つまり、インクルーシブ教育の推進を求める声に対して、分離教育の推進方策を示しているのです。
 さらに、かつて学習指導要領で優生保護法を取り上げ、学校で教えてきた歴史に対する反省も示されていません。「旧優生保護法等の検証を踏まえた人権教育の教材の作成と活用」は盛り込まれましたが、学校教育での必修化については先送りされているのです。現在、議論されている学習指導要領改訂の中で、どう取り扱われるのか注視しなければなりません。

 2024年12月27日 、「障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた行動計画」(以下、行動計画)が発表されました。長年の裁判闘争の結果、7月3日に「優生保護法は制定時から違憲」との最高裁判決が下されました。判決を受けて、前・岸田首相は優生保護法裁判の原告・弁護団・支援者と面談し謝罪を行いました。その際、「優⽣思想及び障害者に対する偏⾒差別の根絶に向けては、これまでの取り組みを点検し、教育・啓発等を含めて取組を強化するため、全府省庁による新たな体制を構築してまいりたい」と述べました。
 そうして設置された対策推進本部のもと検討が進められました。その幹事会には、各省庁の局長クラスの他に、前・障害者政策委員会委員長の石川准さん、国連・障害者権利委員会委員で弁護士の田門浩さんなども参加しました。そして、旧優生保護法訴訟原告をはじめ、のべ19の障害者団体からのヒアリングも行われました。そうした経過の上でまとめられたものです。

■インクルーシブを求める声に対して分離教育推進?!

 行動計画の構成は、Ⅰ はじめに、Ⅱ ヒアリングにおいて当事者の方々から示された主な問題意識、III取り組むべき事項、IV実施体制というものです。
公務員の意識改革に向けた取り組みとして障害当事者を講師とした研修実施や、優生保護法等の検証を踏まえた人権教育の教材の作成と学校教育・人権啓発活動での活用など、一部に新しい取り組みが盛り込まれていますが、「優⽣思想及び障害者に対する偏⾒差別の根絶」という趣旨からすると不十分な点が目立ちます。ヒアリングで指摘された内容と「Ⅲ 取り組むべき事項」で書かれている項目とのギャップが全体を通じて見られます。とりわけ、かい離が著しいのが教育に関する記述です。
 ヒアリングでは「差別・偏見をなくしていく上で子どもの時から共に学び育つこと、インクルーシブ教育の推進が不可欠」と、どの団体も口を揃えて指摘されていました。しかし、「学校教育」の最初の項目にあげられたのは、「特別支援学校と小中高等学校のいずれかを一体的に運営するインクルーシブな学校運営モデル」と「交流・共同学習の推進」でした。
 本紙の読者の皆さんにとっては周知のことですが、特別支援学校と小中高校が併設されたとしても分離教育であることに変わりはありません。つまり、インクルーシブ教育の推進を求める声に対して、分離教育の推進方策を示しているのです。さらに、かつて学習指導要領で優生保護法を取り上げ、学校で教えてきた歴史に対する反省も示されていません。「旧優生保護法等の検証を踏まえた人権教育の教材の作成と活用」は盛り込まれましたが、学校教育での必修化については先送りされているのです。現在、議論されている学習指導要領改訂の中で、どう取り扱われるのか注視しなければなりません。

■全分野に関わる課題としてインクルーシブ教育の実現を!

 行動計画の「Ⅳ 実施体制」では、「障害者施策については、障害当事者抜きに障害当事者のことを決めないことが最も重要な原則である。…障害者政策委員会における報告や意見聴取を経て、次期障害者基本計画などにも反映させていく」と記されています。その後、開催された障害者政策委員会では問題点の指摘と見直しを求める声が相次ぎました。中でも教育分野は「分離教育からインクルーシブ教育への転換」を含む抜本的な見直しが求められます。
 2022年に出された国連・障害者権利委員会の総括所見では「優生保護法被害者へ謝罪・補償せよ」との勧告が盛り込まれました。その勧告が最高裁判決に至る裁判闘争を大きく後押ししました。そして、この総括所見では、脱施設(地域での自立生活)とインクルーシブ教育が緊急テーマになっているのです。 今、教育分野のみならず、さまざまな分野に関わる人びとの共通の課題として、インクルーシブ教育の実現が大きなテーマになってきているといえます。インクルーシブ教育の実現なしには、「差別・偏見のない共生社会」はできません。優生保護法被害への反省・総括を求めるという点からも、インクルーシブ教育の推進を実現しましょう!