不登校の現在地 (会報2023年12月号)

東京都 会員 内田良子(子ども相談室「モモの部屋」)


内田さんは、不登校・ひきこもりなどについて、子どもの視点からとらえ直し、親や市民が自分たちの力で
解決への道すじをつくっていくために相談会や体験交流の場を設けています。「モモの部屋」はこうした交
流の場です。(事務局)
文部科学省は、10月4日に2022年度に不登校をした小中学生の人数が、過去最多を更
新して、30万人に迫り、前年度比で22%増加したと報告しました。この他に学校外の学びな
どを選んだ子どもや非行などを含む「その他」に分類された子どもが6万2307人いまし
たが、メディアで取り上げられることはほとんどありませんでした。新型コロナ感染回避で

30日以上休んだ子どもは忌引き扱いで出席になっていますが、2万3660人おり、この人
数を加えると不登校は38万人を超えます。
不登校とは、年間30日以上連続又は断続で欠席している子どもたちのことです。病気と経
済的理由で30日以上欠席した子どもの人数は、不登校からはずされています。経済的理由で
長欠した子どもは全国合わせて36人、病気が原因の子どもは7万5597人います。病気の
内容を見ると、不登校に起因した心身症の子どもがかなりの割合で含まれており、この人数
をどう位置付けるかを注意深く見守る必要があります。
1990年代、国が積極的に早期学校復帰対策に取り組むようになってから、不登校の子
どもの数は増え続けています。子どもの側から見れば、この対策は明らかに間違いであり失
敗です。
国が長期欠席の統計を取り始めてから56年がたちますが、登校を拒否し不登校生活を続け
た子どもたちは、学校をどう捉えてきたのでしょうか。
「子どもが奴隷のような所だった」
「子どもをロボット化するのはおかしい」
「人間の画一化、ものを考えなくさせる所」
「競争社会を生み出す諸悪の根源」
「こんなにまでして学校に行かなきゃいけないなら、お母さんのおなかの中で死んじゃえ
ばよかった」
「いじめられて学校に居場所がないのに親に学校に行けと言われたら、暗黒の宇宙に放り
出された気がする」
子どもたちは、学校が人間らしく学び、生活する場ではないことに深く傷つき失望して、
登校を拒否し不登校生活をしてきたのです。文科省は不登校の理由を「無気力・不安
」51・8% 「生活リズムの乱れ・遊び・非行」 11・4% 「いじめを除く友人関係
」9・2%としています。学校に原因があると訴え続ける子どもたちと大きくかけ離れてい
ます。
1980年後半から今日に至るまで、子どもたちに直接聞いた各種のアンケートでは、「
先生が原因」と答えたものが常に26%~30%あり、4人に1人は先生に起因しています。し
かし、文科省では「教員との関係をめぐる問題」が例年1・2%前後です。教員たちがいか
に足許を見ていないか驚くばかりです。その上、いじめに起因した不登校は0・2%です。
いじめの認知件数が、68万人を超えるなかで、学校側は何を見ているのか疑問ですが、これ
を基に不登校対策は作られます。
不登校といじめの急増に緊急対策を迫られた文科省は、「校内教育支援センター」の設置
や「学びの多様化学校(旧不登校特例校)」を増設し、不登校やいじめの認知件数の多い学
校にスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーを配置して充実させる。一人一台
配布のデジタル端末を活用し、心の変調を把握して不登校の未然防止に取り組むというもの
です。子どもの内面まで管理し操作しようとする空恐ろしい対策が始まろうとしています。
不登校の子どもたちは訴えています。
「学校が楽しかったら、布団をはねのけても学校に行くと思うんだ」
「ぼくはフリースクールに行きたくて、学校を休んでいるんじゃない。理由を聞かずに怒
る先生が怖いから行かないんだ」
「私は学校が嫌いなのではありません。大、大、大嫌いです。学校には夢も希望もありま
せん」

「ただ一言『学校を休んでいいよ』と言ってほしかったんだ」
「学校へ行く道は命を落とす道、通学路にある石柱が墓石に見える」
子ども同士のいじめや子どもの人格を無視した叱責や指導で、心に傷を負った子どもたち
にとって、学校は対人恐怖や人間不信の場になります。存在を脅かされ魂を傷つけられる場
所を拒否し、安心で安全な場所を求めて登校を拒否しているのです。
子どもたちが求めているのは、早期学校復帰対策ではなく「安心して学校を休む権利」で
す。
子どもの人権が保障される安全で安心な学校と、競争や管理のない自由な学びと生活ができ
る、子どもと等身大の学校が求められています。