改正児童福祉法の意見表明権とアドボカシー制度

福岡県・世話人 堀 正嗣

子どもアドボカシーとは

 アドボカシーとは「権利のために声を上げる」活動です。障害者運動はもとより、部落解放運動、女性解放運動、その他のさまざまな反差別の運動は、当事者が声を上げることにより社会を変革してきました。しかし子どもの分野では、アドボカシーが立ち遅れてきました。「子どもは未熟で力がないからおとなが決める」とする子ども差別がまかり通ってきたからです。障害児の場合には、障害者差別と子ども差別という二重の差別(交差性差別)により、一層本人の声が抑圧されてきました。就学にあたって子どもの声が聴かれないことや、旧優生保護法による不妊手術は、本人が知らない間に、あるいは本人の意思に反して強制的に行われてきたのです。
 重い障害のある子どもを含めて、すべての子どもの声を聴き、それを正当に重視して子どもに関する決定を行うことを国連子どもの権利条約(1989年採択)は日本を含む締約国に求めています。これが「子どもの意見表明権」です。

児童福祉法改正と意見表明権

 日本政府は1994年の批准にあたって、「国内法の改正は必要ない」として、意見表明権を保障する法律や制度の改正は行ないませんでした。国連子ども権利委員会の度重なる勧告を受けて、2016年6月にようやく、「全て国民は…その(子どもの)意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない」(第2条)とする児童福祉法の改正が行われ、意見表明権が法律に規定されました。
 そうした中で、船戸結愛さん(5歳)と栗原心愛さん(10歳)が虐待を受けてなくなる悲惨な事件が起きました。児童相談所など関係機関が関わっていたのに、子どもの声を聴き尊重することをしていなかったため、このような結果になってしまったのです。こうした事件を背景にして検討が加速されました。
 私は2009年にイギリスの子どもアドボカシーに出会いました。イギリスでは、全国津々浦々に子どもの権利を守る市民団体があり、アドボカシーを展開していました。政府もこうした声に応えて、2002年に児童福祉分野で子どもアドボカシー提供をすべての自治体に義務づけました。100%子どもの側に立ち、子どもの指示と許可の下にのみ行動するアドボカシーの純粋さと力強さに私は感動しました。また、言葉を話さない障害児にも差別なくアドボカシーを提供していることにも感動しました。帰国後は、アドボカシーを日本の子どもたちに届けることをめざして活動を行ってきました。その結果、2022年6月の児童福祉法等の改正により、新たな社会福祉事業として意見表明等支援事業が創設され、自治体の努力義務となりました。この法改正は2024年4月より施行されています。

意見表明等支援事業の意義と課題

 意見表明等支援事業は、「子ども主導・独立性・守秘・エンパワメント・平等・子ども参画」の6原則に基づいて行われることになりました。これはイギリスから学んだ基本原則であり、日本でも原則とされたことは画期的です。毎日新聞(2024年5月30日朝刊)の調査によれば、児童相談所設置自治体の8割でこの事業が実施されています。また全国で子どもアドボカシーセンターの立ち上げが相次ぎ、子どもアドボケイト養成講座の受講者が増えています。このようにアドボカシーが制度としても、市民社会においても広がっていることは素晴らしいことです。
 他方で、法律の条文がアドボカシーの原則を踏まえておらず、そのことと相まってこの事業が児童相談所の意見聴取を補佐するものになっている事例もあります。行政が直接運営していて独立性がない事例やアドボカシーの専門性と市民性がない団体に委託されている事例もあります。また一時保護所や児童養護施設で生活している子どもが中心で、重い障害のある子どもが置き去りにされていると感じることもあります。そもそもアドボカシーはすべての子どもに必要であり、学校や病院、地域、家庭に広げていくことも課題です。
 私が会長をしている子どもアドボカシー学会(2022年8月)の正会員は400名を超え、開催する子どもアドボケイト養成講座の修了者も1000人を超えました。学会はアドボカシーを広げる市民運動の拠点として活動しています。全国連とともに、障害児の権利が守られる社会をつくっていきたいと願っています。ホームページ(https://adv-kenkyukai.jimdofree.com/)を訪れて養成講座受講と入会をお願いします。

子どもアドボカシー学会編
『子どもアドボカシー研究第1号』
『子どもアドボカシー研究第2号』
各定価1300円+税 〒185円

発行所 千書房
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