公立高校の定員内不合格実態アンケート (都道府県教委対象) 《中間報告》 (会報2024年12月号より)
全国連運営委員・高校担当
1.これまでの経緯
2021年9月の全国連全国交流集会(東京)の高校分科会における千葉や沖縄の報告をきっかけとして、全国連としても定員内不合格の調査を行った。また、国会では、舩後靖彦議員が定員内不合格をなくすよう質問・要望を続け、文科省は実態調査を行うこととなり、22年と23年の12月にその結果を公表した。この公表をもとに、定員内不合格をなくすよう各地の教育委員会に働きかけることを会員に呼びかけたり、高校担当で会員のいない県などに直接電話をかけたりなど取り組んできた。しかしながら、定員内不合格は出され続け、障害のある生徒だけが定員内不合格にされるという差別的事態も続いている。
定員内不合格の地域格差が大きく、地方では高い割合で出されている。そのことに対する問題意識や、文科省から6・25通知(「定員内不合格自体が直ちに否定されるものではありませんが」と書かれているが、「学ぶ意欲」や「不合格理由の説明」など一歩踏み込んだとされる)が出されたことをどう受け止めているかを知りたいと、アンケート調査を行うこととした。
2.取り組みの経過
5月には質問項目など検討を始めたが、7月末に依頼文・アンケート用紙ができ、8月3日に発送。(アンケート内容については会報8月号№427に載せている)回答は 8月31日を締め切りとしたが、9月に入ってからも届いた。(郵送32、メール2)
9月11日舩後靖彦議員と面談。(アンケート実施について説明、今後の国会でもさらに取り組みを要望)
10月5・6日「『障害児』の高校進学を実現する全国交流集会in旭川」において中間報告。
その後、回答に不明な点がある場合等は、高校担当で教委の担当者に問い合わせた。
3.回答の状況
返送はあったものの未回答も多く、回収も7割あまりだが、現段階で把握できた主な点について報告したい。
【公立高校で定員内不合格を出している学校の割合は各都道府県でどれくらいか】
このような疑問から、各教委へ公立高校の数、定員内不合格を行っている学校の数をきいた。そこから定員内不合格を出している高校の割合がわかった。
〈割合の高い10県 (回答のあった県・2023年)〉
〇愛媛:63% 〇島根:53・8% 〇高知:53・3%(2024年は71%)〇福島:45・9% 〇秋田:45・3% 〇山梨:41・2% 〇佐賀:39・5% 〇静岡:30% 〇福岡:29・4% 〇岩手:26・4%
〈参考:未回答県(ネットで公立高校数を、文科省調査で定員内不合格を出した学校数を調べた)では〉
〇沖縄:50%台 〇山口、宮崎:40%台 〇香川、鹿児島:30%台
〈割合調査からわかること〉
・3割の高校が定員内不合格を出していれば、それは当然のことになるのではないか。
・「定員内不合格は普通、当然」を支える考え方は「適格者主義」、「能力主義」。
・この問題の背景には、過疎や人口減、若者の流出、雇用の都市集中などの社会的な問題がある。
・上記15県のうち、倍率が1.0を下回る県は8県(最低は高知の0.7)、1.1を下回る県は5県。定員割れの高校が多いことを示す。
定員内不合格がクローズアップされている今こそ、希望者全入を迫る時ではないだろうか。
定員内不合格解消と希望者全入は車の両輪。
・中学卒業者の98%が高校に進学する現在、高校入試がある意味は何か?
下記、気になる記事です。私たちの目指す方向とは真逆の方向で定員内不合格解消へ向かう高知県。
「高知県立高、定員1200人減へ 県教委案 2032年度までに」
高知新聞社2024・8・27ウェブニュース
定員内不合格者がダントツに多い(22年度180人、23年度130人)高知県で上記のような高知新聞の見出しがあった。記事には「県教委は少子化などで定員割れが常態化している現状を受け、26~32年度に全日制の入学定員を現在の4810人から『少なくとも1200人以上減らす』との案を示した。」とある。
定員内不合格者を多く出しながら、大幅な定員削減を行うという。「高校進学を希望する子どもたち全員には学びの場を与えない、『適格者』だけが高校に行けばよい」という方針なのだろうか。
【2次選抜で不合格になった人のその後の進路について という質問について】
回答はすべて「調べていない」だった。理由は、個人情報である、入試の業務以外、中学校の進路調査で把握しているといったものだった。高校で定員内不合格にすることへの責任は感じないものだろうか。自県の子どもの進路について懸念はないのだろうか。「懸念がありますか」という質問にするとどう答えただろうか。
【高校進学を希望しても実際に入れない人はどういう人だと考えるか という質問について】
「学ぼうとする意欲を見取ることができない人やルールを守ろうとする意思を示さない人」という回答が1県あり、これまで定員内不合格を出されてきた人たちがそのように受けとめられてきたことと重なる。文科省の通知で「学ぶ意欲を有する生徒に対して、学びの場が確保されることは重要」としているが、何回も受験している生徒が不合格とされている。教員の意欲を見取る力の方が足りない。
一方「社会的経済的家庭的等で不利な条件のもとにある人」を選択した県が1県あった。
【定員分の予算を確保しているため生徒を最大限入れる責務を負うか という質問について】
「そうは思わない」と答えた県が1県あった。
【高校進学を希望する人に対し、どのように考えるか という質問について】
「希望者が全員入れるようにすることは行政として重要だとは思うが、それに近づけるような施策をすることは難しい」と回答した県が2県あった。
【志願者数が定員に満たない場合の対応等に変更の予定があるか という質問について】
定員内不合格を多く出している県では、「変更の予定がない」(校長の判断)と答えた県の方が残念ながら多かった。現在は「校長の判断」としている県で「未定」とする県が4県あり、定員内不合格を出さない方向へ変わるよう、注目したい。
最終選抜でも多くの定員内不合格を出しているにもかかわらず、「原則として定員内不合格を出さないよう取り扱っている」としている県も多く、定員内不合格を出したのは校長判断ということにしているが教育委員会が本気で指導しているのかが問われる。
【定員内不合格を出したとき、不合格の理由を当該生徒に説明するか という質問について】
「説明した」では、請求があれば校長が説明したという答えで、25年度については請求があれば説明するというものと、情報公開請求があるので説明しないというものがあった。
【「定員内不合格を出さない」ことが「学びの場の確保」につながるか という質問について】
「つながる」と「一定程度つながる」の回答が半々だった。「つながらない」はなかった。「能力・適性等が不十分と判定される場合においても合格とすることは当該生徒にとって適切な学びの場の確保につながらない場合がある」というコメントもあった。このような考えに対して粘り強く話し合いをしていくことが重要と考える。
【適格者主義についての記載があるか という質問について】(「各高等学校や学科の特色に配慮しつつ、その教育を受けるに足る能力・適性を判定して入学者選抜を行う」という意味内容の文言が記載されていることを指しますという説明を添えての質問)
入試要項に記載していないという都県が10都県あった。(福島、東京、新潟、長野、岐阜、愛知、三重、奈良、高知、佐賀)ただ、実施要項にはないが選抜方針にある、また通知には書かれているところもある。
「能力・適性を判断して…」と書かれているが、「適格者主義」の表現はないという回答もあった。
「本人の責に帰さない事項を含めることのないよう指導している」「障害を理由に不合格になることはない」というコメントが書かれているところもあった。知的に障害があり点数が取れないことや、コミュニケーションがむずかしくて面接で答えられないなどで不合格にされることが「障害を理由としている」と認識していない場合が多いが、実質的にそのコメントの通りに、本人の責任とすることなく障害のある生徒を受けとめてほしい。
4.今後の取り組み
12月には3年目の公表があると思われるので、数の多い県、回答のなかった県に問い合わせるなど引き続き取り組むとともに、各地での高校入学実現の動きに連携し協力していく。