大谷恭子さんを偲んで 1 心に残った大谷さんの言葉 「出会った事件で弁護士は育つ!」(会報2024年12月号より)
障害児を普通学校へ・全国連絡会 代表 長谷川律子
養護学校から地域の花畑東小学校への転学を求め自主登校中の康治と支援者が、「トイレに行きたい」と言うので校門を乗り越えたところ、建造物不法侵入で逮捕されました。大谷恭子さんとはこの刑事事件の担当弁護士として、45年前に初めてお会いしました。「まあ、可愛いお嬢さん!! イヤイヤ お母さんでした」。世の中オンチの私は、びっくり。大谷さんの第一印象は、素敵な女性だな! でした。
その頃、大谷さんは障害児・者と出会ったことがなかったため、「親が学校へ通わせないのは法律違反だ…」と言っていました。しかし八木下さん、楠さんたちと会議を重ねる度に、我がこととして受け止め「出会った事件で弁護士は育つ!」と変わってきました。そして「私の人生が決まっちゃった!」とも。一方、障害児教育の専門弁護士の異名も!! 日本国内のみならず2022年にはジュネーブで日本の分離教育の現状を熱き思いで訴えてくださいました。
1980年代、90年代は、全国連関係の普通学級での生徒の対応については、原則分離(学校教育法施行令第22条の3)が根拠のため、プールに入れない、遠足に連れて行かない、水分もあげないなど信じられないことがおこりました。これは全ての児童生徒に向けた大人の刃(やいば)であると自覚せねばなりません。大谷さんはこんな現状を見聞きする度に「法律を原則統合にしなければならない…」と言っていました。
(1)康治がお腹にいた1968年。19歳の少年が4人を殺害する事件(永山則夫さん事件)がありました。なんでこんなことが起きるのだろう、何があったのか、少年の方が気になった私、今でも覚えています。また、東大闘争で機動隊と学生の衝突に、テレビに向かって「学生がんばれ」と叫んでいました。これが私の胎教かな?
そして69年に逆子の仮死状態で生まれてきた康治でした。緊急入院、退院後の育児ノイローゼ、療育指導で明け暮れた年月。やがて学齢期を迎え、迷わず養護学校へ入学。そこは私が通った小学校とは景色が違うのです。子どもの声が聞こえませんでした。2年生の時、転校希望を出し、地域の仲間とつながり今日に至っています。地域からは非国民、口裂け女の罵声を浴びせられ、怖かったです。「分けられる」ことには敏感となりました。
大谷さんが亡くなって早や一か月がたちました。共生共学を求めてきた法律家として無念なことがたくさんあるでしょう。私には「①原則統合にしなければ、と②22条の3を何とかしなきゃ」 が深く胸に残っている言葉です。
(2)出生前診断で先天性異常について悩む夫婦が多いと聞きます。命の選別がこのような段階から始まっています。無事誕生しても美辞麗句を連ね、「障害児の親」としてわきまえるように仕向けられます。情報提供として普通教育の場がないのです。そのため療育の名のもと、個性を伸ばす手厚い指導を熱く語られ、特別支援教育を選ばざるを得なくなってしまうのです。
そうなんです。それは、それは本当にやさしく親切に丁寧に、医者・保健師・看護師さんたちが心落ち着くまで対応されます。心配や不安を抱えた方々は何の疑いもなく、「分けられた場」を選びます。「選ばざるを得なかった」とは1%も思いません。もうここで、子どもの人権は奪われてしまいましたね。
しかし、兄弟・姉妹がいる家族は手がある分助かることと、かかりきりになれないことなど、子ども同士のいじり合い・遊びで、親の気づきになることもあります。が、やがて幼稚園・保育園、学校へとなった時、就学時健診を迎えます。就学時健診は義務ではあません。
「わが子にあった学校は?」「はい…特別支援学校がありますよ。心配なく」こうして、親の意向を聞いたことになります。
(3)特に、②の学校教育法施行令22条の3は、原則分離が根拠となっています。制度として、特別支援学級・特別支援学校が設置されました。この条文が存在するために普通学級への転籍が非常に困難です。この時の本人、親の意向は、なかなか反映されません。そうなんです。分けたがっているのは国だということがわかりますね。
差別された者の悔しさ、苦しみ、心の叫びを出会いの中で気付いてほしい。怒りを乗り越え、社会を変えたい…。子どもから信じてもらえる大人に私はなりたい…。「分けることは分離教育」です。能力主義との闘いです。
大谷さんからは「当事者、親よ、結集軸を作れ」の檄エール、遺言かな? と受け止めてしまいました。お会いする度に「元気してた、律っちゃん。頑張るしかないヨ!」と。あの明るく大きな声がもう聞けません。恭子ちゃんの「無念!」が伝わってきます。
さみしいです。さみしいです。
みなさん、ぜひお読みください。
『共生社会へのリーガルベース ―差別とたたかう現場から』
大谷恭子著 現代書館刊 2500円+税
・ 金井康治自主登校裁判
・連合赤軍事件・地下鉄サリン事件 他
・連合赤軍事件・地下鉄サリン事件 他