「国連による障害者権利条約に関する改善勧告の内容に適した            『障害者基本法等の改正を求める』意見書」新座市議会で採択

キャベツの会(埼玉県新座市) 木村俊彦

埼玉県新座市にあるキャベツの会は1979年養護学校が義務化された年に、「地域で共に」「どの子も地域の普通学級へ」を掲げて活動を始めました。1988年に市教育長と「就学にあたって強引な指導はしないし強制力は持たない」等の確約書を取り交わしましたが、分離教育を規定している法改正なくしては進まないことを痛感してきました。2003年に埼玉県内の団体が全国に呼びかけ、「教育の欠格条項を無くす会」を立ち上げました。「障がいを理由に分離することが差別」との主張を前面に掲げ、国会ロビー活動、文部科学省との話し合いを続けました。2004年の障害者基本法改正論議の中で、参議院附帯決議に「分け隔てられることなく」の文言が入り、「共に育ち学ぶ教育を受けることのできる環境整備」が盛り込まれました。

その当時独自の条例案を審議していた新座市は、2005年に全国で初めてこの附帯決議の内容を取り込んだ「共に暮らすための新座市障がい者基本条例」を制定しました。この条例をベースに、各課が取り組む総合計画として「新座市障がい者基本計画」が策定され、キャベツの会ではここ数年は総合福祉部長を窓口に、計画推進に向けた各課職員との懇談会を開催し、教育委員会とも話し合ってきました。

附帯決議を取り込む形で2011年に障害者基本法が再改正され、2013年には原則分離を規定してきた学校教育法施行令も改正され、国連障害者権利条約が批准されました。それらの影響もあって、新座市教育委員会では「就学相談は特別支援学校や特別支援学級を希望する親子に対してのものなので、希望していない(あたりまえに通常学級に行くつもりの)親子に対しては、就学相談票を提出しないように指導する」という発言を引き出しました。また「保護者が決めた最終の希望がお子様の就学先」であることが「就学相談のしおり」に明記されました。通常学級での受け入れ体制についての相談は、各学校の教育相談で行うという方針を打ち出しています。そしてこれまで「車椅子利用」に限定してきた介助員については、「介助が必要な児童生徒」と対象を広げました。

障害者権利条約に基づき、2022年に国連障害者権利委員会は、日本政府への総括所見として、「分離された特別支援教育の廃止」や「脱施設」を勧告しました。2023年度は新座市障がい者基本計画の策定年度でもあり、勧告の趣旨を計画策定に活かすために、キャベツの会ではDPI日本会議の尾上浩二さんを招いて「残った本丸は脱施設とインクルーシブ教育」をテーマに講演会を開催しました。尾上さんは以前新座市議会が議員研修会の講師として招いたつきあいもあり、当日は市議会議員や市職員の参加もありました。

尾上さんからは、国連の総括所見では目指すべきビジョンの「明確性」と行うべき措置の「具体性」が求められている。日本は目指すべき山を間違えており「分けた上で手厚く」という日本流対応への根本的問いかけがされた。また日本担当委員のラスカス氏は、脱施設(精神病院も含む)とインクルーシブ教育はつながったテーマと語り、「子ども時代の分離は、分断した社会を生み出す」「インクルーシブ教育はインクルーシブ社会の礎」と訴えられたとの報告がありました。そして、求められているのは原則インクルーシブ教育制度と就学拒否禁止条項だとして、「総括所見への誠実な対応」を求める国への意見書提出の呼びかけがありました。

キャベツの会では新座市議会に働きかけ、昨年12月15日に全盲の富永孝子議員(引退)が提出者となり、市民と語る会、共産党、公明党が賛成者として名前を連ね、「国連による障害者権利条約に関する改善勧告の内容に適した『障害者基本法等の改正を求める』意見書」が賛成多数で採択されました。

現行の障害者基本法では第16条に「国及び地方公共団体は、障害者が、その年齢及び能力に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするため、可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ、教育の内容及び方法の改善及び充実を図る等必要な施策を講じなければならない。」とあり、「年齢及び能力に応じ」とか「可能な限り」など制限を加えるような文言は削除し、共に教育を受けることが原則であること、地域の学校を希望したら学校側は拒否できないということを法律で規定する必要があります。尾上さんによると、「この問題についての地方議会から国に対する意見書は全国でも初めて、これをきっかけに全国に広げていきたい」と話されていました。

市議会での意見書採択は第6次新座市障がい者基本計画策定にも大きな影響を与えたと思います。教育に関する項目については「障がい児教育の推進」の文言を削除し「共に育ち学ぶ保育・教育の充実」を前面に出しました。また「能力と適性に応じて」という言葉は削除され、支援員や介助員の役割として「共に育ち学ぶことを支援する」が新たに加えられました。

しかし、分離教育原則の時代ですら、教育委員会とぶつかりながらも大勢の障がいのある子が通常学級に就学していたのに、昨年度の就学相談で「特別支援学校就学が望ましい」と判断された新小1の18人のうち、15人がそのまま特別支援学校に就学し、3人が特別支援学級、通常学級は一人もいませんでした。昔と違って、希望すれば通常学級の就学が認められるようになってきたのに、希望しない、できない親子が増えてきていることに危機感を強く感じています。

大きくなればなるほど難しくなる社会参加ですから、まずは小学校1年生はみんなと一緒に通常学級で地域デビューを果たしてほしいと思います。言葉がしゃべれるようになればとか、もう少し歩けるようになればとか、そんなことを考えていたら一生社会に参加することはできません。ありのままのその地域に住むすべての子を引き受けるのが公立小学校ですから、できる、できないは関係ないし、その子のいないところで受け入れ体制が整うことも絶対にありません。

就学相談票は単なる相談活動の申し込みではなく、特別支援学校や特別支援学級の申し込みとして、一旦「特別支援学校が望ましい」と判定されると、その判定はずっとついてまわります。就学相談票は保護者と幼稚園や保育園、療育施設を通じて教育委員会に提出されますが、そのことの意味をしっかり理解していてほしいと思います。