ともに学び・育つインクルーシブ教育及びともに生きるインクルーシブ社会の実現を求める決議~日本弁護士連合会第67回人権擁護大会 (会報2026年2月号より)

「ある社会がその構成員のいくらかの人々を閉め出すような場合、それは弱くもろい社会である」
国連の国際障害者年行動計画(1979年)がこう指摘したように、人間の差異への不寛容と排除は、社会から多様で豊かな包摂力を奪い、個人の尊厳や平和と民主主義の礎を阻害する。
 私たちは、誰もが多様な個性と独立した人格を備えた尊厳ある存在であることを相互に認め合うとともに、一人ひとりが社会を構成するメンバーとして、ともに生き、学び、育つことのできる権利を保障されたインクルーシブな社会を目指して、私たちの社会を変革していく必要がある。
 障害者の権利に関する条約(以下「障害者権利条約」という。)に基づく対日総括所見(2022年)は、インクルーシブ社会の実現を阻む重大な障壁として、分離教育や、障害のある人の施設収容、特に精神障害のある人に対する強制入院と無期限の入院について指摘し、人権モデルに基づいて、障害の有無にかかわらず誰もが地域でともに育ち、ともに学ぶインクルーシブ教と、どのような障害のある人も施設や病院ではなく、多様でインクルーシブな地域で生活する権利(脱施設化)の実現を強く勧告した。
 インクルーシブ社会を実現するためには、障害、性別、国籍などの多様性を認め合うことが必要であるが、本決議は、上記総括所見に示された指摘及び勧告を契機として、障害の有無を問わずともに学ぶインクルーシブ教育と障害のある人の脱施設化という切り口から、全ての人にとって生きやすいインクルージョンの理念の実現に向けた政策を国と地方公共団体に対して、次のとおり提言する。

1 分離教育からインクルーシブ教育への制度改革
(1)インクルーシブ教育の理念と定義の明確化
インクルーシブ教育に関し、関係法令において、国際人権法に基づいてその理念を明確にし、「全ての子どもが、必要な支援、合理的配慮及び一人ひとりに合った環境を提供され、障害その他の差異の有無にかかわらず同じ場でともに学び、効果的で良質な学習が行えるように、教育内容、教育方法、学校文化を変えていく制度改革のプロセスを経て達成される教育」と定義すること。
(2)子どもの権利を主軸に置いた学校
教育の実現国際人権法に従って、子どもの参加を確保しながら、子ども及び子どもに関わる大人を対象とした全ての制度・政策の改革を行い、子どもの権利を主軸に置いた学校教育を実現すること。
(3)分離教育からインクルーシブ教育への転換
障害の有無で学ぶ場を分ける医学モデルに基づく分離教育を改め、人権モデルに基づいて、子どもを権利の主体として尊重し、個々の子どもに合った支援を提供しながら、分け隔てられることなく、ともに学び、育つ教育環境を整え、インクルーシブ教育へ転換を図ること。
(4)国家行動計画(ロードマップ)の提言
分離教育からインクルーシブ教育へ段階的に転換していくため、以下の内容を含む国家行動計画を作成し実行すること。
 ① インクルーシブ教育を受ける権利を人権として保障することを法制度上、明確化すること。教育基本法、学校教育法を含む関連法にインクルーシブ教育を実現するための所要の改正を行うこと。
 ② 通常学級につき20人程度までへの段階的な小規模化、子どもたちの主体的な学び合いを大切にした教育方法の研究開発、教員や支援員の加配等、障害の有無にかかわらず必要な支援を提供する教育体制を構築すること。支援を必要とする全ての子どもたちが通常学級に通うことのできるインクルーシブな学校環境を作り、特別支援教育についての人材と予算と知見を地域の学校へ段階的に移行させること。
 ③ 就学前の母子保健法に基づく健診及び療育において、医学モデルに基づく分離ではなく、人権モデルに基づき、分け隔てられることなく、ともに育つインクルーシブ保育及び教育へ向けた支援が行われること。
 ④ 全ての子どもに必要な支援と合理的配慮を保障し、保育や教育の設備等についてバリアフリー化・ユニバーサル化を進めること。
 ⑤ ろう児に対し、手話を第一言語として獲得しつつ、第二言語として日本語の教育も受けられるバイリンガルろう教育を保障すること。
 ⑥ 個別支援計画は、人権モデルに基づいて策定されること。
 ⑦ 教員養成課程に、人権とインクルーシブ教育の意義や具体的手法を学ぶ必須科目を採り入れ、就学前から学校教育まで過程に関する全ての教職員に人権モデルに基づく研修を継続的に行うこと。
 ⑧ 学習指導要領を人権モデルに基づく内容に改変するとともに、量的に減らし、これを最低基準ではなく目安とし、学校や教員の裁量を広くした柔軟なものに改変すること。
 ⑨ 障害の有無にかかわらず、学ぶ意欲のある子どもが等しく後期中等教育を受けることができるよう、定員内不合格の問題を解決することを含め必要な制度を整えること。
 ⑩ 就園・就学や、支援と合理的配慮の課題について、本人・保護者と保育所、療育機関、学校及びこれらの設置者が、建設的対話により解決していくための仕組み及びインクルーシブ教育の観点からの判断が担保された不服申立制度を創設すること。

2 施設収容主義からインクルーシブ社会への制度改革(脱施設化)
(1)障害の人権モデルに基づいて、全ての障害のある人がインクルーシブな地域社会で暮らす権利が保障されるよう次
の制度改革をすること。
 ① 障害のある人が主体的に地域で暮らす権利が保障されるよう、家族依存から脱却し、施設入所から地域生活への移行を進め、地域社会におけ
る必要十分なサービスの拡充等を含めた制度・政策を行うこと。
 ② 住宅政策・雇用政策等につき、新たな分離型サービスを生まないよう、障害に特化しないインクルーシブな公共政策を推進すること。
(2)精神障害のある人が自分らしく地域で生活する権利を保障するため、精神保健医療福祉制度を改革すること。
① 精神保健医療福祉サービスを、人権を保障し、本人中心の、地域に根差した、リカバリー志向のサービス
にすること。
② 精神病床の削減計画及び予算と人材の地域移行を進めるための期限付きの計画を策定し、包括的で組織横断的な改革を実行すること。
③ 医療と福祉を統合し生活支援に足を置いた支援システムへ抜本的に改革すること。
④ 精神障害のある人が自己の生活と人生を自ら管理できるよう、個別的かつ柔軟で、多様な状況に対応可能なサービスを提供できるように、障
害者総合支援法の改正を含めた制度改革をすること。

3 政府から独立した人権機関の創設及び個人通報制度の導入
 子どもと障害のある人の尊厳確保のために、政府から独立した人権機関を設置すること、並びに障害者権利条約及び子どもの権利条約の各選択議定書を批准して国連への個人通報制度を導入すること。

以上のとおり決議する。
2025年(令和7年)12月12日
日本弁護士連合会

※日本弁護士連合会のホームページでは、決議に加えて提案理由もお読みいただけます。
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