日弁連人権擁護大会シンポジウムと決議の報告 (会報2026年2月号より)

東京都・会員 弁護士 柳原由以
新潟県・会員 弁護士 黒岩海映

 日弁連が人権大会のシンポジウムで「インクルーシブ教育」をテーマにするという試みは、国連からの総括所見をしっかり受け止め、活かしたい! という思いとともに、日弁連の中でも理解者・同士を増やしたい、という願いからはじまりました。
 そのため、当初から、「シンポジウム自体をインクルーシブに」「弁護士会の障害分野だけでなく、子ども分野のメンバーと共に」ということが意識されていました。

 12月11日当日の基調講演は、国連・障害者権利委員会元副委員長の石川准さんと、子どもの権利委員会元委員長の大谷美紀子さんのお二人にお願いしました。大谷さんのお話の中で、子どもの最善の利益として、児童福祉施設入所等、社会的養護という観点からの「分離」をどのようにとらえるのかについて、国連でも障害者権利委員会と子どもの権利委員会で意見交換が行われたという話がありました。それはまさに、シンポの準備期間を通して、障害分野の弁護士と子ども分野の弁護士の間で繰り返し行われてきた当事者主義とパターナリズムがぶつかる場面についてのやり取りに重なるものでした。
 続けて全国アンケート調査の報告では、1094回答の分析から見えてくる、「その場にいる子に支援をするという意識がない」→「普通級はその子のためにならないという社会認識の醸成」→「支援学級への希望者の増加」という悪循環が生じていることへの指摘や、分離されていることによる「傷つき」の体験が全国から寄せられたことをお伝えしました。ご協力いただいた全国連の皆様、ありがとうございました。

 第1部の最後に上映されたオリジナル映画「隣の席がなくなる日」は、多くの人がとっかかりをもちやすい、共感しやすいアプローチとしてつくられました。「インクルーシブな社会に分離法案が出てくる」というアイデアを聞いたときは、「おもしろい!!」と飛びつきましたが、いざシナリオが出てくると「この発言自体が能力主義前提だ」「インクル世界で〝障害〟という概念が当たり前にあるのか」など意見が飛び交い、撮影までにシナリオを間に合わせるギリギリの状況で、活発で激しい意見のぶつかり合いがありました。その議論自体が、それぞれの考え方を理解し、譲れないところと妥協できるところをすり合わせながら作品を作り上げるというインクルーシブな過程でした。

 第2部は、インクルーシブ教育をテーマにしたセッションです。25年2月の長崎視察で出会うことのできた当事者や教員の方々に登壇していただきました。まず長崎市の高校3年生の岡本湖心さんは、脳性麻痺で車いすユーザーです。幼い頃から「みんなと一緒!」という強い意志をおもちで、ともに関わり合いながらおくってきた学校生活を生き生きと報告してくれました。熊本の橋村りかさんは、重度障害をもつ娘さんを特別支援学校に入学させることに疑いをもっていなかったのに、見学に行った地域の小学校で、子どもたちが当たり前に娘さんを誘って楽しく遊びだす様子に衝撃を受け、地域の学校に通わせることを決断した感動的なエピソードを、お話しくださいました。長崎市の教員の山下晴美さんは、「わかる」ことと「学ぶ」ことは違う、わからなくても子どもたちは学んでいるというお話など、ともに学ぶ教育の実践と意義を紹介してくださいました。長崎の自立生活センターを営む筋ジストロフィーの山口和俊さんは、ユーモアたっぷりに、地域でともに育ってきた経験と地域生活の自由の素晴らしさを語ってくださいました。続いて、お二人の方からインクルーシブ教育の経験や思いを語っていただくビデオメッセージを紹介。最後に、当事者の皆さんが作ってくださったインクルーシブ教育を体感できる素晴らしい動画を上映し、ともに育つ子どもたちの姿が目に、心に、焼き付けられました。

 第3部は、インクルーシブ教育の先にあるインクルーシブ社会を描くセッションでした。
 シンポジウムは、会場662人、配信348人、合計1010人の参加を得て、ある弁護士から「涙でハンカチがぐしょぐしょになった」との感想をもらうなど、多くの高評価をいただくことができました。

 こうして翌日の人権擁護大会を迎えました。決議案は、2025年2月頃から作成を始め、どこを誰が書いたのかも、どんな議論を経てそうなったかも記憶に残らないほどの議論と修文作業を重ねました。
 これまで弁護士会内で出された数々の疑問や意見を踏まえて分厚い想定問答集を準備した上で決議案の審議に臨みました。するとなんと、一つの反対意見も質問も出されずに、何人もの方から心を打つ賛成意見を述べていただき、圧倒的賛成多数で可決されました。

 提言の詳細は、基調報告書にも書いていますので、ぜひ、ご参照ください。
 基調報告書、アンケート報告書、シンポジウムのアーカイブ動画などは、日弁連HPに掲載されていますのでぜひご参照ください。
シンポジウム
h t t p s : / / v i d e o . i b m . c o m /recorded/134665358
オリジナル映画
h t t p s : / / v i d e o . i b m . c o m /recorded/134664325
基調報告書など
https://www.nichibenren.or.jp/event/year/2025/251211_12.html



 このシンポと決議をこれからの取り組みにつなげていきます。まず来年度から、これまで東京だけで実施されてきた就園就学ホットラインを全国版に拡大する予定です。全国で「よちよち歩き」の弁護士たちが道に迷っていたら、ぜひ、温かくサポートし、弁護士たちを育てていただければと思います。
これまでの全国連の皆さんの応援とサポートに感謝します。これからもぜひ、一緒に歩んでいければうれしいです。